R・シュトラウスの名作「薔薇の騎士」(新日本フィル・指揮;アルミンク、すみだトリフォニーホール)が昨日無事終了した。メゾソプラノの藤村さんを始め、世界で活躍中の歌手を贅沢に集め、この音楽を知り尽くした俊英マエストロ・アルミンクの棒に操られ、官能の2日間はあっという間に過ぎ去った。僕は「テノール歌手」役、知っている人はうなずいてしまうだろうが、たった5分間で失敗も許されず、極めてハイテンションで切り抜けなければならない難役であった。実は練習中に今回は結構迷いが生じていた。「これ、上手く歌い切れるのかな」と。しかしHP(オケつき舞台稽古)に入って気分は一変した。舞台に立って、マルシャリンを目の前にして、気持ちを集中したら、久しぶりに感覚であるが、心の中からフレージングの線のようなものがはっきりと見え始めた。今回は「天使に連れてこられ(この天使はマルシャリンの幼い時の心の象徴)謁見の場で、まだ純粋な愛を夢見ていた頃のマルシャリンの気持ちを歌によって目覚まさせて欲しい、と可愛くお願いされて、歌う」と言う設定。とても面白い。彼女の事だけを想い、美しい流れを、と考えた瞬間、それまで心の奥にとどまっていた何かが噴き出してきた。唯一『イタリア語で歌う』人間であったから、語感とニュアンスはオペラ全体にギャップを作り出すが、それが良い効果を生むよう出来ている。極論として、実はのアリアが無くても話は進んでゆくのだが、入ることによって旧態依然とした貴族社会の雰囲気が感じられる場面に変容する。このアリアは実は当時、有名なイタリア人歌手、エンリコ・カルーソーをイメージして書かれ、しかも実際に依頼されたらしい。しかしギャラがプロダクションの総予算より高くなり別の人が歌ったと言う事だ。カルーソーの持つ声の存在感と弱音に向かうフレージングの美しさを感じて頂けたら本望である。
